大判例

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大分地方裁判所 昭和21年(ワ)10号 判決

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の不動産について所有権移転登記手続を為せ。

当事者参加人の請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告との間に生じたものは被告の負担とし、当事者参加人と原告及び被告との間に生じたものは当事者参加人の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文と同趣旨の判決を求め、その請求原因として、原告先代亡岡本友太郎は大正十二年二月二日訴外山崎ヨシノから金一万円を利息は金十円に付き一ヶ月金十銭、弁済期は大正十三年一月十五日という約旨で借受け、右債務を担保する為その所有に係る別紙目録記載の不動産(以下本件土地と略称)について抵当権を設定した。しかるに、右友太郎はこの債務の支払を怠つた為、大正十四年六月訴外ヨシノから右抵当権を実行せられたので、大正十五年二月十八日被告等の先々代である訴外亡向ケサの承認を受け同人名義を以てこれを競落し、次いで同年三月二十日右友太郎は訴外三津浜銀行からケサ名義で金一万六千円を借受け、同月二十二日右競売代金を納入して本件土地全部の所有権を取得し、以てこれをとりとめることができたのである。而して、右の経緯で本件土地は登記簿上右ケサの所有として登載されたが、その実は原告先代友太郎の所有であつたので、その後大正十五年五月十五日友太郎は右ケサとの間に、友太郎が訴外三津濱銀行に対する前記借用金債務を弁済すれば、ケサは友太郎に対し本件土地の所有権移転登記手続をし、友太郎をして名実共に右土地の所有権者たらしめるという約定が成立した。しかるに、友太郎は同年十二月三十一日死亡し、原告はその家督相続をしたのであるが、右ケサも亦昭和九年十二月二十二日死亡し、向鶴治においてその家督相続をした。かくして、原告は友太郎から本件土地の所有権移転登記に関する前記特約上の権利を承継したので、昭和二年十一月二十二日三津濱銀行に対する前記借用金債務全部の支払を了した。そこで、原告は右約旨に基き鶴治に対して本件土地につき所有権移転登記手続を求める為本訴に及んだところ、右鶴治は本訴係属中昭和二十二年十一月二日死亡し、岡本安雄においてその相続をした。しかるに、右安雄も亦昭和二十三年十一月十四日死亡し、被告等においてその相続をなしたものである。と陳述し、当事者参加人の主張事実を否認し、仮に参加人がその主張の如く売買に因り有効に本件土地の所有権を取得したとしても、その旨の登記を経由していないから、その所有権の取得を以て原告に対抗することはできない。と抗弁した。

被告は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。という判決を求め、答弁として、原告主張事実中本件土地が原告主張の頃競落に因り向サケの所有に帰した旨登記簿に記載されていること、原告先代友太郎、向サケ、岡本安雄がそれぞれ原告主張日時に死亡し、主張の如くその相続がなされたこと、は認めるけれどもその余の事実は否認する。本件土地は向ケサが真実競落に因り所有権を取得したものであつて、同人死亡に因りその家督を相続した亡向鶴治は昭和十六年八月二十日頃当事者参加人に対しこれを売渡した。但し所有権移転登記は未了であるが、既に本件土地の所有権は当事者参加人に移転してゐるのであるから、いずれにしても被告は原告の請求に応ずるわけにはゆかない。と述べ、当事者参加人の請求を認諾し、その主張事実全部を認める旨述べた。

当事者参加代理人は本件土地は当事者参加人の所有であることを確認する。被告は当事者参加人に対し右土地について所有権移転登記手続をせよ。参加に因る訴訟費用は原被告の負担とする。という判決を求め、その請求原因として、本件土地は元原告先代岡本友太郎の所有であつたのであるが、訴外亡向ケサは大正十五年三月二十二日競落に因りその所有権を取得しその旨登記せられたものである。而して右友太郎、ケサ、岡本栄三郎、同カズ及大野五郎は昭和二年十一月二十二日、連帯して訴外株式会社大分県農工銀行から金四万八千円を借受け、本件土地及び右栄三郎、カズ、五郎、友太郎の所有不動産に抵当権を設定した。しかるに、同銀行は昭和十二年五月十三日株式会社日本勧業銀行に合併した。そして昭和十六年八月二十日同銀行は右ケサ等六名に対する前記貸金債権(同日現在の残額元利合計金六万六千八百十円六銭)を抵当権と共に訴外株式会社土予銀行に譲渡し、同日当事者参加人は、抵当物件の各所有者から目的物件全部を代金六万六千八百十円六銭を以て買受け同時に右土予銀行に対し岡本栄信(岡本栄三郎家督相続人)岡本カズ及向鶴治(向ケサ家督相続人)の各債務を引受けて肩代りをなし、その債務全額と売買代金とを対当額にて相殺した。よつて本件土地は当事者参加人の所有に帰した次第であるから、被告は右土地につき参加人に対して所有権移転登記手続をなすべき義務がある。しかるに、原告はその主張する理由に因つて本件土地は右ケサ名義で原告先代岡本友太郎が自ら競落した旨主張し、延いて当事者参加人の所有権をも否認する。しかし本件の競売は抵当権の実行に基く任意競売であるから債務者でも競落人となることができることは競売法第四条の明記するところである。してみると、原告先代友太郎は本件土地の競落にあたつて特に向ケサの名義を借る必要は毫もないのであるから原告の右主張は信用し難くむしろ競落人は名実共に向ケサと認めるのが至当である。仮にそうでないとしても、右に述べたように原告先代友太郎は自ら本件土地の競落人となり得たのに向ケサをして競落人なりと表示せしめたのであるから、右友太郎及びその承継人たる原告は、第三者たる当時者参加人に対し、自己に所有権が存することを主張し得ないことは、正義衡平乃至禁反言の原則に照して疑の余地がない。しかのみならず原告と亡向鶴治等は本件土地に関し多年紛争を続けていたが、昭和十七年五月頃岡本清助、友永繁太郎、末広軍平等の仲裁に因り原告先代友太郎所有の畑二筆(別府市大字境千五百三十六番畑二十四歩、同所千五百二十六番畑二畝二十三歩)に対する抵当権の抹消を条件として、原告、鶴治間は固より同人等と土予銀行、及至当事者参加人間においても将来本件土地に関し訴訟等を提起しない旨申入れたので、参加人等はこれに応じ昭和十七年八月二十五日右畑二筆に対する抵当権を抛棄しこれを抹消した。よつて、原告がその後に至つて本件訴訟を提起したことは失当である。と述べ、原告主張の請求原因中死亡及これに因る各相続の事実を認め、原告の抗弁に対し、原告は本件参加訴訟の当事者であつて第三者ではないばかりでなく、民法第百七十七条にいわゆる第三者は当事者若くはその包括承継人以外の者で登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有する者を指すことは夙に判例の示すところであるから、前に述べた如く原告が正義衡平乃至禁反言の原則上本件土地の所有権を主張し得ない以上、右土地の競落人ケサの包括承継人である鶴治からこの土地を買受けた参加人に対してはその登記の欠缺を主張し得ないものというべきである。若し原告の右抗弁が許容せられるならば、参加人も亦原告に対しその登記欠缺を主張し、本件土地に対する原告の所有権を否認し得ることとなり、対抗問題の循環を生ずるであらう。一体本件は原告も参加人も共に被告に対し本件土地の所有権移転登記を訴求するのであるから、その何れかの所有権が確認せらるればその当然の結果として他方の所有権は否定せらるるに至るべきものであるから、本件においては登記についてのいわゆる対抗問題を生ずる余地はないのである。と述べた。

証拠(省略)

別紙

目録

別府市大字別府字境下千三百九十五番

一、田        一反二歩

同所千四百三番

一、田        六畝六歩

同所千三百五番の一

一、田        八畝五歩

同所千二百九十七番の二

一、田        七畝十七歩

同所千三百六番の一

一、田        二反一畝二十一歩

同所同番の二

一、田        十七歩

同市大字別府字境千五百三十三番の一

一、田        一反六畝二十五歩

同所千五百三十三番の二

一、宅地       百五十四坪

同所千五百三十三番の三

一、田        五畝二十三歩

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